第204話 木村家の爺さん

二泊三日で徳島に行ってきた。
とっても夏い三日間やった。
二泊とも彼女の実家の木村家にお世話になったのだが、
木村家にはひろしという名の爺さんがいる。
(ひろしという名の翁ありき)

ひろしが問題である。

問題はひろしである。
木村家の爺さん、ひろし。御年八十五。
とにかく飲む。
酒を飲む。
来る日も来る日も酒を飲む。
ひろしの一日は朝、山に行くことから始まる。
バイクに乗り山へ行く。
時速8キロで山へ行く。
そして昼過ぎに帰ってきて酒を飲む。
そして昼からは畑を耕す。
日が暮れたら家に戻り、酒を飲む。
誘いがあれば近所の友達の家に行き酒を飲む、
そして友達の婆さんの乳を揉む。
気に入らない事があれば誰彼構わずケンカだ。
天気予報が気に入らなければテレビ局に電話だ。

「今日32度なわけないじゃろが、今から駅前行ってはかり直してこい!」

爺さんはいつだってそうだ。
花火大会でトイレに行く時に、
近道をしようとして、
貴賓席を通って係の人に咎められた。

「ほな、ここですんぞ」

無茶苦茶だ。
爺さんは貴賓など認めない。(天皇以外は)
モチロン政治にだって厳しい。
野田総理大臣にも手紙を書いた爺さんだ。
尖閣諸島竹島問題をテレビが報じている。

「あんなもんボヤボヤしてたらいかん、はよ旗立てりゃエエんじゃ」

大航海時代の始まりだ。
そんなひろしが4月にケガをした。
花見の席で酔っ払って転けて左肩を脱臼した。
脱臼はすぐに入れてもらえたのだけど、
肩を動かすのは無理。
最低3週間は安静にしとかなければいけない。
年も年なので家族全員心配でたまらない。
3週間絶対安静のひろしは負傷二日目から独自のリハビリを始めた。

そして3日目、二度目の脱臼をした。

医者もびっくりだ。
あの爺さんがまた来た。
治し甲斐がない。
治し損だ。
次は肩の腱も持っていかれる大ケガで入院となった。
そしてひろしは自ら手術を望んだ。
この手のケガでこの年齢だと普通は手術をしないらしい。
日常生活は不自由になるが、
手術をする時のリスクやその後のリハビリの事を考えれば、
手術という選択はないらしい。
しかし、ひろしは絶対に腕を治したかった。
山に行きたかった、畑を耕したかった。

なにより鮎が捕りたかった。

ひろしは地元では有名な鮎とり爺さんなのだ。
毎年夏になると川に行き鮎を山ほど捕る。
生態系が変わるほどに。
結局、家族と医者、そして鮎の反対を押しきりひろしは手術を受けた。
そして昨日だ。
ボクたちはひろしと一緒に鮎を捕りに川へと向かった。
ひろしは見事に復活した。


(※チンパンジーではありません)


(※チンパンジーではありません)


(※チンパンジーではありません、たぶん)

鮎とり爺さんひろしが不死鳥の如く鮎喰川(あくいがわ)に舞い戻った。
鮎を捕るひろしの全身に力がみなぎる。
ひろしが網をはる。
ひろしが鮎を追い込む。
そしてひろしが鮎をその手につかむ・・・!!
ちょっとした感動がそこにあった。
鮎とり爺さんひろし、ここに完全復活!!

・・・あれ?


なんだか・・・


爺さんの耳・・・


草入ってる!

鮎とり爺さんひろしの完全復活は近い。
(まだでした。)