第215話 夏を弔いて、風呂屋

「やっと二人になれたね。」

泡風呂の中だった。
京都は三条京阪の裏手の小さなお風呂屋
小さなお風呂屋の小さな泡風呂の中でボクは今日1日の心地よい疲れを癒していた。
今日は朝の10時に集合し琵琶湖、近江舞子湖畔で夏を弔ったのであった。
楽しかった夏。
そして短かった夏。
そんな夏をボクたちは弔った。
夏にサヨナラをした淋しさと仲間たちとの最後の夏を噛み締めながら、
浮かんでは消える泡を見つめていた。
隣に気配を感じた。

「やっと二人になれたね」

たつ兄だった。

身の毛もよだつ。
たつ兄とお風呂屋はどうだろう、という意見は確かにあった。
たつ兄にはかわいい彼女ができた。
しかしたつ兄にまつわるゲイ疑惑は未だぬぐい去られてはいない。
「偽装なんじゃないか」なんていう心ない声も聞く。
今日も近江舞子で、でかい外人のゲイカップルを至近距離で観察していたたつ兄だ。

とりあえず、サウナに避難をば。

サウナがとても狭い。
四人が横に並べば満員になるサウナだ。
そこにふくちゃん(レイニー・J・グルーヴ)が入ってきた。
サウナはふくちゃん、ボク、ひとつあけて、おじさんという配列になった。
ふくちゃんが何やら耳打ちをしてきた。

「見て、あの人、むっちゃハゲてる」

身の毛がよだつ。
肩を寄せあうサウナでダウトを探すのはほんとにやめてほしい。
地主ってほんとに怖い。
地主ってほんと怖いナウ。

とりあえず、水風呂に避難をば。

しかし、気持ちいい。
サウナからの水風呂、これがたまらない。
風呂屋の神髄だ。
一人、水風呂でうなっていると湯船の方からふくちゃんの声が聞こえてきた。
サウナを出たらしいふくちゃんの声が聞こえてきた。

「金玉でかっ!」

ほんとにイヤだ。
見つけてしまったらしい。
面白い金玉を。
でも絶対に口に出さないでほしかった。
心に中に留めておいてほしかった。

風呂屋を出て立ち飲み屋へ移動した。
ビールがうまい。
ふくちゃんが、メニューを吟味する。
「刺身あるねんな、食いたいな、刺身にしよか・・・え〜っと、」

「アジとアジください」


(アジ、そしてアジ)

アジが好きなんだね。