第271話 悲しい黒猫

一本のメールからだった。
兄嫁の西川さんからのメールがすべての始まりであった。

「落ち着いて聞いてほしいんやけど、くぅちゃんのお腹に赤ちゃんが3匹いて、今にも産まれそう!」

そう、松井家の愛猫くぅの懐妊を知らせるメールであった。
え?でもなんで?避妊手術したはずやん!
くそ、あのやぶ医者!
かかりつけの犬猫病院はとても怪しい。
何かの予防注射の時にネコを抱えている西川さんの手に注射を打った前科のあるやぶ医者だ。
くぅ。
我が家に住み着いて10年。
その、春秋を松井家で過ごしてきた。
わたしは不安であった。
妊娠出産をするには高齢である。
母子ともに死んでしまう可能性もある。
くぅこの十年は2年前に亡くなったおばあちゃんとの十年でもある。
くぅとの思い出は大好きだったおばあちゃんとの思い出。
くぅだけでも助かってほしい。
そしてメールの翌日、
くぅは帝王切開の手術に臨んだ。(もちろんいつもと違う病院)
3匹の子猫は息をしていなかった。
悲しい想いをした僕の黒い猫はその翌日に松井家に帰ってきた。
子猫は残念やったけど、
くぅが生きていてくれて本当によかった。
長い3日間。
そして悲しい3日間。
そんな悲しい話をけつむらさんにした。
複雑な顔をするけつむらさん。
けつむらさんが口を開いた。

「大変やったな、ゴマ太郎・・・」


(大変だったわね)

くぅちゃんの方や!

あれ?話聞いてた?
おれのエエ話!
妊娠した猫の話やで、
ゴマ太郎という猫も飼っていたけども。(家出しました。)
オレはめす猫にゴマ太郎って名前をつけたんか?

オレんち全員アホなんか!

あぁ、確かにそうだとも、
アホのおとんにアホのアニキ、そしてそのアホの嫁、
これがいま松井家を構成してるパーティーだとも。
絶望的なパーティーだとも。
ドラクエで言うたら最初の町に辿りつけへんくらい絶望的だとも。
しかし、オレがいるやないか、

オレという勇者が!

猫の名前を決めるというそんな大事な会議にこのオレが駆け付けないわけないやないか、
馳せ参じますとも、
五尺七寸のこの身体で!
そんなオレがいる会議でメス猫にゴマ太郎なんていう名前が議決するわけないやないか!
今回もそうや、
諦めてはいたけども、一応3匹の猫の名前考えていたんや、
ニャンニャン、ニャンチー、吾平くん(ごへいくん)
ニャンニャンとニャンチーは男の子にも女の子にも使える、そんな名前や。
わかるな?
そして吾平くん。
日本男児
わかるな?
アイデンティティーを感じるやろ。
どや、とってもIQ今を感じるやろ?
しかし今回は残念ながら使われへんかった名前達や。
くぅももうお母さんになることはない。
けつむら、いつかオマエも結婚して、父親になるだろう。
その時に使うといいさ。
ニャンニャン、ニャンチー、吾平くん。

人間用ではないけれども。

市役所が黙ってないかもしれないけれども。