第281話 憧れのバーテンダー

暑い夏の予感がする。
わたしもこの夏が終わればペヨーテ(というバー)でバーテンダーをかじってまる二年になる。
毎週火曜日だけのなんちゃってバーテンダーであるからして、
至らない点が多々あることは自覚している。
しかし、至らないまでも来ていただいたお客さまには楽しい一時を味わってほしいと思い日々精進しているつもりである。
しかし、どれ程頑張っても越えられない壁があること、
それも知っている。
わたしが常に意識しているバーテンダー、それは神戸の町にいる。
我がサヨナラバイバイズのベーシストであり、
バー チューリップハットのマスターである、
上月大介氏その人である。
わたしの目標、いや指標となるバーテンダーである。
わたしは彼からバーテンダーの全てを学んだ。
わたしがもしバーテンダーと名乗ることが許される存在であるとするならば、
それは彼の背中を追い続けているその結果である。
常にわたしの遥か前方に彼の背中があった。
(いや、これからもそうであろう)
そんな彼が、バー チューリップハットにて新しいカクテルを開発した。
わたしの胸は高鳴った。
月氏の追い求めたカクテル、
月氏の理想の形、
今夜、全てのバーにいる僕や君や彼らのために。
チューリップハットの新メニュー、それは、

カシスみかん。


(カシスみかん)

えっ?

カシス・・・みかん・・?
カシスオレンジとはどこか違うのですか?
月氏は遠い目をしている。
遠い目の上月氏はこう言ったんだ。

「ファジーみかん、ってのもあるよ」


(あるんだってばよ)

上月大介氏、わたしの憧れのバーテンダーである。