第300話 バンドやろうぜ

キチュウさんのバンドが今月の終わりの梅田ハードレイン公演を持って解散することになった。
ここは玉造ペヨーテ(というバー)。
スタジオ終わりでやってきたキチュウさんの様子がいつもと違う。
何かを決断した男の顔であった。

「今日な、言うたんや・・・メンバーに。今月で終わりにしようって・・・」

そうなんですか・・・つらかったですね・・お疲れ様です、
でもちゃんと言えたんでしょ?
胸の内を、
よかったじゃないですか!キチュウさん!
バンドがなくなるのは淋しいことかもしれないですけど、
終わりってゆうのは新しい始まりの一歩じゃないですか!
キチュウさんはこんなところで止まる男じゃないっすよ!

「いつもは三時間スタジオ入るんやけどもな、今日は二時間だけスタジオ取ってあとの一時間はミーティングというか、飲みにでも行って自分の気持ちを伝えようと思っていたんや・・・」

よかったじゃないですか、
ツライ話やったかもわからないですけど、
そうゆう時間を持てて、
みんなわかってくれたんでしょ?

「誰もこうへんかってん・・・」


(みんな帰ってしもたがな・・・)

え?

「大事な話あるからって言うたんやけど、みんな帰ってしもたがな・・・そやからサクっと言うたがな、次の次で終わりねって」
え・・・ほな、皆さんなんて?
「そうですか、って。」
それだけですか?
皆さんはあれなんですね、キチュウさんより大事なものをいっぱいお持ちなんですね。

もう止まらない。
キチュウさんは思いのたけをカウンターにぶつけた。
バンドに対する思いを。
バンドに対するその熱い思いを。
わたしはバーテンダー
そんなひとりのバンドマンの思いを受け止める。
今宵は飲んでください。
「キチュウさん、よっぽどバンドを愛していたんですね・・・えっと、なんていうバンド名でしたっけ?」
キチュウさんの目が深く潤んだように見えた。

「キチュウズってゆう・・・」


(キチュウズです)

一人でやれや!

オマエは一人でやれ!
今までずっとひとりでやってきてたがな!
「いやや!オレはバンドがやりたいんや!新曲もあるんや!聴いてくれや!歌うぞ」
おいおい、勝手に何を歌おうとしてくれとんねん、座れや!
「聴け!、いや、聴いてください、オレはバンドがしたいんや!では、新曲『知らんがな』」


(新曲聴いてください、キチュウで『知らんがな』)

知らんがな!

知らんっちゅうねん!
バンドしたいとか知らんから!
ひとりでやれって!
歌うなって!
うるさいねんから!
わかった、バンドしたいのはわかったから!
だから歌うなって!ダサいねんから!
「歌わせろ〜、バンドしたいんや〜、オレはバンドマンなんや〜、衣装もな、赤のな細いズボン、ってゆうかオレが細いねん、細身のロッカーや、ほんでエエ匂いがしてやな、フワッとエエにおいがしてやな、女の子がキャーキャー言うん・・・」

太くて臭いやん。


(ん?)

アカンて、
だってオマエ太くて臭いやん、
だからアカンて、
言うてたやん、自分で言うてたやん、
最近背中が臭いって、自分で言うてたやん、
お風呂入ってなんか身体臭いからチンコごしごし洗ってもにおいが落ちひんくて、
ようよう点検したら背中、というか、首筋やったって。
自分で言うてたやん、
首筋からチンコのにおいしてたって。
首筋のにおいとチンコのにおいが近いって相当深刻やて。
バンド云々ちゃうって。
人類として致命傷やって。

さてここにキチュウズのラスト公演の情報をここに記しておきたいと思う。
日時は2013月8月29日(木)
場所は梅田ハードレイン。
18:30 から開場受付が始まる。
見に行くか行かないかはあなた次第である。
わたしはもちろん、行かない。
それと一つ、大事なことを言い忘れていた・・・。

首筋だけちゃうで。


(ん?何が?)