第四十二話 父親の威厳 2

昨日に続いて父親の威厳について考えていきたいと思う。

5年ほど前か、オカン方のおばぁちゃんが亡くなった。
つまりオトンにとっては嫁の母親だ。
お通夜のときにちょっとしたアクシデントが起きた。
近所の神主がお焼香するときに、
その神主は熱い方をつかんでしまったのだ、二回も。
「あつっ・・・!あつっ・・・!」つって。
その場の雰囲気としてはもちろん軽くザワザワはしていたけど、
(まぁ、神主がすることだし)とおおかた受け入れムードだった。
一人の初老の関西人をのぞいては。
京都から、嫁と二人の息子と一人の娘を連れ葬式に出席していたその彼はプルプルと肩を震わせていた。親族席で。
「いやいや、あかんやろ、わかるやん、だって煙出てるやん・・・!!神主とか関係ないやん!神主やからしょうがないって何なん・・・」
賛成やねん、その意見にはおおむね賛成やねん、ただわろたらあかんやん。
嫁の母親の通夜でわろたらあかんやん。

通夜がはけ親族食事会のはこびになる。
満々だ、彼はもう満々だ。
飲む気が満々だ。
ビールがなみなみと彼のグラスに注がれる。
ビールがなみなみと注がれたグラスを彼は頭上に高々と掲げ、

かんぱーーーーいっ!!!!

会場の方が飛んでくる。
献杯でお願いします・・・!!」
静かだが強い口調だ。
小さくなる彼とその家族。

〜5時間後〜

彼とその家族は今夜の喪主である彼の嫁の兄の家にいた。
彼は酔っていた、とっても酔っていた。
「信也くん(彼)、今日もよく飲んだねぇ、うちにねいいお酒があるんだ、100年モノのウィスキーなんだけどね・・・あっこれはちょっと飲ませてあげられないんだけどね・・・」
彼の目は変わっていた。
世界はスローモーションに進んでいた。

ほな何かい

エエ酒て見るだけかい

においもナシかい

100年待っても見るだけかい

ほないつ飲むねん

105年目かい

世界が動き出した。
羽交い絞めにされている彼。
叫ぶ喪主。
「信也くん、帰ろう!なッ、帰ろう!」
叫ぶ彼。

「洋介!手をすべらせろ!あけてしまえ!100年目にしてあけてしまえ!」

父親の威厳ってなんだろう。