第六十一 話 クワガタ虫

こないだ友人にこう言われた。

「ヨウスケんちクワガタの匂いがする」

ちょっと待ってな、
クワガタの匂いってどんなんやったっけ、
え〜っと、クワガタ、クワガタ・・・
あれ思い出されへんぞ、
クワガタやろ?クワガタ、クワガタ・・・
クワガタの匂いはっと・・・

くさっ!

え?くさっ!
だいぶ臭いやん!
クワガタってクワガタ虫のことやんな、
ボクの知っているクワガタ虫のことやんな、
あいつやんな、

こいつやんな?
やっぱりこいつ?
あれ?悪口言うてる?
人の実家の悪口(しかも匂いに関する)言うている?

久々に帰ってきてスーッと深呼吸・・・そうそうこの匂い、
昔は賑やかだったこの家も今じゃ寂しくなっちまったな、
でも変わっちゃいないや、この匂い・・・落ち着くんだよな、
ははっ、母さんがよく言っていたっけ、
家には一軒一軒違う匂いがあるんだヨ、
この家にはねこの家が覚えている記憶が香っているんだヨ、
いつだってこの匂いを忘れちゃいけないヨ、
淋しくなったらいつだって家に染みついた匂いは思い出せるんだからネ、
このクワガタ虫のにおいをね・・・

言うてへんわ!

イヤやわ!
淋しくなった時に、都会に疲れた時に、
そんな時に思い出すんがクワガタ虫のにおいて!
悲しすぎるやんか、あんまりやんか!
認めへん、そんなん認めれれへんで、
そや、クワガタ虫の匂いを思い出してみよ、
遠い記憶、蒼い夏。
みんなでクワガタ虫捕りにいったよな・・・
ジージー鳴くセミの声、ジリジリ照りつける太陽・・・
あっ!クワガタ虫や!

ははっ、うちの玄関と一緒の匂いやん。