第118話 平林さん(仮名)

「一杯だけエエかな?」

玉造ペヨーテ(というバー)時間は23時。
平林さん(仮名)はこのあいだだってこの時間に姿を現した。
平林さん(もうすぐ70歳)、今日も酔っておられる。
開口一番、新聞記者時代の話をまくしたてる。
これで七度目だ。
来店回数2回目でだ。
平林さんはいつだってフルスイングだ。
中々出来ることじゃない。
そして絶対に見習っちゃいけないことでもある。
「わし、離婚してから淋しいんや〜」
この話は九度目だ。
「松井くん、誰かエエ女いてないか?」
今日はやや内角に来る。

(ここから平林さんの言を整理してお送りします。できるだけリアルに要点をまとめてみました。)

わし平林、もう何年も前に嫁と別れて淋しい独身生活を送ってるんや。
わし平林、どこぞにエエ女はいてないか?
わし平林、エエ女言うても若い娘やなくていいんや。
わし平林、一緒にいて落ち着けるおばあちゃんを探してる。
わし平林、そんな恋愛がしてみたい。
松井くん、エエおばあちゃん紹介してくれへんか?
「・・・?」
松井くん、わしにエエおばあちゃんを紹介してくれ。

オレが、オマエに、ババァを紹介・・・?なんでや?

あっ、ごめん。
ボクが平林さんにおばあさんを紹介ですか?
いやいや、ボクの人材斡旋能力及び、仲介力を過大評価しすぎですて!
おばあさんの知り合いいてないですし・・・。

(ここからもう一度平林さんの言を整理してお送りします。要点をまとめてできるだけリアルにお届けします))

わし平林、若い娘はもうええんや。
わし平林、上品できれいなおばあさんと仲良くなりたい。
わし平林、お茶飲み友達欲しいんや。
わし平林、気が合って優しくて、
たまにシックスナインできる、そんなばあさんを探してる。

シックスナイン・・・?オマエとババァが、シックスナインを・・・?

あっ、ごめん。
でも最後のおかしかったから、つい。
シックスナインてあれですか?
人間以外が絶対しいひんと言われているあのカタチですか?
性の先進種族、ホモサピエンスにだけ許されたあのカタチをですか、
サラッと言うたな〜、
サラッと「たまにシックスナイン」て。
まぁ、そうなんですけど。
恋愛の在り方って、まぁそうなんですけど。
一緒にお茶飲んだり買い物行ったり、
そして「たまにシックスナイン」
まぁ、そうなんですが・・・

オマエとババァがすんの?

オマエとババ・・・あっ、ごめん、
おばあさんとオマエ・・・あっ、ごめん、
つい、オマエって言うてまうねんけどエエか、
もうエエか!

オマエとババァ、シックスナインとかすんの?

いいけど、死ぬやん?
三回に一回死ぬやん?
まぁ、オレは別にそれでも構わんのやけど。


玉造の夜はこうして更けていくのでした。