第131話 俺はバーテン

俺はバーテン。
今日も酒を作ってる。
甘いカクテルを飲みながら苦いクソッタレの人生を蹴っ飛ばす。
そんな夜があってもいいんだ。

竹内力にそっくりのその方は突然現れた。
時計は22時を少しまわったところ。
だいぶんと酔っておられるその方はかなりのこわもてだ。
店内に緊張が走る。

「ビールと・・・ポテトチップ」

ビールとポテトチップ。
うん、なんだかかわいいオーダーだ。
ポテトチップスのスを省いてポテトチップって言っちゃうところがなんだかかわいいと思うのはボクだけだろうか。
しかしあいにく当店にポテトチップ(ス)は置いていない。
恐る恐るその旨を告げた。

「なんやマスター、ポテトチップないんかい、ポテトチップおかんかい、ポテトチップみたいなかっこええお菓子おかなあかんぞ!」

店内に緊張が走る。
しかし、ポテトチップ(ス)をかっこいいと思っているところや、
ツマミをお菓子って言っちゃうとこがやっぱりかわいい。
とりあえず得意の平謝りだ。
平謝りでは負ける気がしない。
「まぁ、エエわい・・・それはそうとマスター・・・気づかんか?」
(なんだろう?)
「わからんか?かえたんや・・・」
(うん、わかんない)

「ダウニーからレノアにかえたんや、エエ匂いがするやろ!」

柔軟剤のハナシやったか〜!
気づきませんわ〜、
そればっかりは気づきませんわ〜、

「フワフワのフカフカや・・・」

知らんがな!
おっと、いけないいけない、こわもてには変わりはない。
力先生がトイレに立たれた。
「マ、マスターこのドア、どないしてあけるんや!」

取っ手を引くと開きます。

たぶんおうちのと同じタイプのです。
すごい普通のです。
30分後、力先生が再びトイレに立たれた。

「マ、マスター、ドアどないしてあけるんや!」

だからこうやったら普通に開くねんて、ほら。
取っ手あるやん、
それを引くねん、
ほら、やってみ、普通に開くやん。
そして30分。力先生がまたトイレに行かれる。

「マ、マスター!ドアが開かんのや〜!」

もうエエわ、開けたあげるからユックリしいや。
外で待っといてあげるから、
ほ〜れ、シィコイコイ。
しばらくして力先生の声が聞こえてきた。

「マスター!便器があかへん!便器があかへんのや〜!」

ホンマか〜?
すごいな〜 、
もう、ちょっと怖いわ、
最初の意味とは違う意味で怖いわ。
怖さの種類変わってきてるわ〜!

力先生の隣で手相を見れるという女性が座ってらした。
女性が力先生の手相を見ると言い出した。
うんうん、いいと思う、
和むと思う、
力先生も乗り気だ。
「金運、勝負運、共に上々です。人気線も出てますし・・・ 」
いいやん、いいやん、
そんなん、そんなん、
そんなんいいわ〜、
先生もニッコニコ!

「ただ生命線がすっごい短い!」

松井(え?)
力ちゃん(え?)
「金運、勝負運、共に上々です。人気線も出てます、ただ生命線がすっごい短い!」

ババァ!占い師のババァ!

言いにくい事を二回も言うてくれんなよ!
この方の生命線がすっごい短いとか、
手相見んでもなんとなくわかるやん!
何をハキハキと言いにくい事を言うてくれとんねん!

俺はバーテン。
今日も酒を作る。
甘いカクテルを飲みながら、
苦いクソッタレの人生を蹴っ飛ばす、
そんな夜に乾杯。

(恋は遠い日の花火ではない  サントリーウィスキー)