第153話 哀しい男

21時。ここは玉造、ペヨーテ(というバー)。
今日もなんだかカオスの予感がする。
なぜなら、そう、あの人がいらした。
高松さん(仮名)45歳、派遣労働者
今日もほろ酔いでおられる。
今日も泥になるんだろう。
泥酔ってゆうか最終的に『泥そのもの』になるのがこの人だ。
今日はなんだか機嫌がいい。
開口一番、「ボク彼女ができたんですよ〜」
めでたい、本当にめでたい。
高松さん(仮名)は45年間彼女がいなかったらしい。
そんな高松さんにも春の便りが届いたんだ、なんてめでたいんだろう。
ちなみに高松さんは自称町田康似を誇りにしているが、
ボクの目には前田吟に見える。
でもこれは内緒だ。
そして存在感、キャラクター、喋り口なんかは完全にこの人だ。


(世界のヘイポー)

これも内緒だ。
そんな高松さんが入ってくるなりの「彼女宣言」。
秋冬秋冬秋冬冬冬冬冬冬・・・の異常気象だった彼に春がきたんだ。
やっと穏やかな春がきたんだ。
ほんで、高松さん、どんな方なんですか?

逢沢りなに似てるんですよ〜」

メッチャかわいいじゃないですか!
羨ましいな〜、どこで知り合ったんですか!

「職場が一緒なんですよ〜」

あ〜、派遣先がってことですか、
やりますね、高松さん!
やりましたね、高松さん!
名前はなんて言うんですか?
なんて呼んだはるんですか?

「名前はまだ教えてくれないんですよ〜」

えっ・・・?

「名前は教えてくれないんですけど、調べました、西田さんて言うんですよ〜」
なんだか雲行きがあやしい。
すごいイヤだ。
もう帰ってほしい。
・・・家とかは?どこに住んだはるんです?

「福岡から通ってるって言うんですよ〜」

ウソつかれてるなぁ!!

オマエ完全にウソつかれてるなぁ!!
あれ?彼女?
ホンマに付き合ってるん?
大丈夫?オレいきなりオッサンのウソ話に付き合わされてる?
・・・あれ?高松さん、それホンマに彼女っすか?

「ボクの頭の中では付き合ってるんですよ〜」

お〜い、高松〜、ブラジル辺りに派遣されろ〜、
電話一本で新しい歯ブラシをデリバリーしろ〜、
その際はモチロン自費でいけよ〜、

「たまにキモいとか言われるんですよ〜」

嫌われとるがな!
付き合うどころか嫌われとるがな!
わかるけど、キモいけど!
「濡れ衣なんですよ〜、ボクキモくないんですよ〜」
待ち伏せしてたでしょ!とか言われるんですよ〜」

待ち伏せしてないときでも言われるんですよ〜」

しとるやないか!

たまにしとるんやないか!
そうゆうとこや、
そうゆうとこやぞ、高松!

「でも彼女、突然会社にこなくなっちゃったんですよ〜」

なんでや思う?
よう考えてみて、
なぁ、なんでやめたんかな?
一旦考えてみて、
そして出家して。

高松さんは哀しい。
今日も哀しい。
『哀』という字をよく見てみると帽子をかぶった高松さんがおどけている様にも見える。


(ルンルン)

哀しい男、高松。
今日だってもれなく哀しい。
常連さんが呟いた、
ぼそりと呟いた。
「あ〜、最近調子悪いなぁ・・・」
高松さんはこたえた。

「ボクなんてあれですよ〜、生涯通じて調子が悪いですよ〜」

高松さんは来週から堺に泥を撤去する仕事に派遣される。
泥と一緒に撤去されないことを心から祈る。
泥と間違えて撤去されちゃわないように心から祈る。
またここでお酒が飲めますように。

〜ボクなんてアレですよ、生涯通じて調子が悪いですよ〜