第191話 高く飛べ

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団ワンマンツアー最終日。
前日の名古屋で全員お酒を飲んでしまって意味もなく一泊したボクら。
サヨナラバイバイズカーに乗って梅田を目指していると、
KTRパイセンからこんなメールがきた。

「今日ギターで参加していいでしょうか?リハーサルは何時からですか?」

嫌だ。
本当にイヤだ。
みんなの顔を見るとみんなイヤな顔をしているので、
どうやら一斉送信でメンバー全員に送っているらしい。
とりあえず無視することにして梅田を目指す。
開場の梅田シャングリラについた。
トラベルのメンバー、スタッフ、店長のキイくんと挨拶を交わす。
奇妙くんが言った。

来てるで・・・

嫌だ。
本当にイヤだ。
楽屋のドアを開けた。

イヤだ、本当に。

イヤだ、心から。
楽屋のドアを開けるとKTRパイセンがお化粧をしていらした。
新選組の法被を身にまといて。
「なんなんすか?」と聞いた。
(この「なんなんすか?」には戸惑いと怒りと色んな『?』がつまっています。)
「なんなんすか?」と聞くとパイセンは微笑みを浮かべ言った。
新選組の法被500円やってん」

そうじゃなくて。

「リサイクルショップで500円やってん、たぶん本物。」

だから、そうじゃなくて。

そして、たぶん偽物。
リハーサルが始まろうとしている。
KTRパイセンが立ち上った。
一体この人は何をリハーサろうとしているのか。
一体この人は何をリハーサろうというのか。
すごい小さな音でアコースティックギターを弾くパイセン。
ソロに入るタイミングを全然つかめないパイセン。
突然ラップをぶち込むパイセン。

何で手を挙げたんや?

何でこの人は手を挙げたんや。
なんで「ボクやります」って言うたんや。
リハーサルが終わりステージを後にした。
一言いってやろうと思いパイセンを探した。
物販席にいるパイセンを見てボクは目を疑った。

何を自分の作品並べとんねん!

なんと3タイトル。
しかも奇妙礼太郎トラベルスイング楽団と同じ広さで展開している。
何をビジネスチャンスと捉えとんねん。
とりあえず全てのCDを掌底で強めに押さえ、パイセンをうながす。

駄目、絶対!

ライブの幕が開こうとしていた。
上月くんはまだ寝ている。
ゆりえブギーが禁煙の楽屋で3本目の煙草に火をつけ慌てて消している。
上田くんはボクのお兄ちゃんとその嫁のプリントされたTシャツに着替え終わったところだ。
KTRは念入りにメイクをした目元を満足気に鏡でチェックし、

そしてサングラスをかけた。

もうどうでもいい。
あとは高く飛ぶだけだ。
(KTRだけそのまま帰ってくんな)