第234話 名前

ボクはアルバイトで一日1000人近くの人の『名前』を見る。
『名前』というのは実にさまざまでそれはその人のルーツであったり、
親の願いであったりする。
中には深刻な『名前』もある。
深刻だ、とても深刻である。

志村健太郎

志村健太郎は深刻だ。
(いるやん、すでにすごいのが。)
苦労の半生であったと思う。
逆境だ。
とたんに、逆境じゃないか。

志村義男(仮名)とその妻みつよが40代にしてやっと授かった、
志村家が、親戚中が待ちに待った、志村家の待望の長男。
この何が起きても変じゃない、そんな時代に生を受けた我が息子よ、
どうかオマエくらいは健やか(すこやか)に育っておくれ・・・
母さん、わたしにも抱かせておくれ。
ダメですよ、お父さん、そんなに乱暴に、子猫じゃぁないんだから。
ははは、参ったなぁ、泣かないでおくれ、健太郎
でも母さん、本当によくやってくれたな、
決して身体の丈夫な方でないオマエが・・・
こんなにいい子を産んでくれて・・・ってか?

役所はなにをしていたんや!

防げたはずやん、
不幸を防げたはずやん!
受理すな!
『志村』に『けん』やで、
それはNGネームであってしかるべきやん!
永久欠番にしてしるべきやん!
病院にもおちおち行かれへん。
そりゃ、待合室がザワザワしますよ!
ボクが健太郎くんの担任の先生やったら、
健太郎君のお母さんに詳しい話を聞かせてもらいます。
分かり合える気はしませんが。
ほんでね、グレるにもグレずらいですよ。

「なんや、オマエやんのか、オマエ何中じゃ!」
「四中じゃ!オマエ何中じゃ!」
「二中の竹村っちゅうもんじゃ!竹村哲人ちゅうもんじゃ!オマエ名前なんっちゅうねん!」
「え・・・?名前・・・?」
「なんや、ビビッてんのか!」
「ビ、ビビってへんわ!・・・・志村や、四中の志村っちゅうもんじゃ!」
「志村なんちゅうねん!」
「え・・・・?下も・・・?」
「なんや!ビビッて言えへんのか!」
「・・・・・志村健太郎じゃ」
「あぁ??声がちいさぁて聞こえへんのぉ!!」

「し・・・し・・志村健太郎じゃぁ!!!」

不憫!

メッチャ気の合う仲間ができたとしようや、
なんか、こいつといると心が落ち着くんだ。
オレの尖ったツララみたいな心が解けていくみたいさ。
お、おう、オマエなんて名前なんだ?
オレ、志村。
笑わないでくれよな、志村・・・健太郎・・・オマエは?

え?加藤ってゆうの!?

加藤とはちょっと仲良くしずらいんちゃうんかい!

かとちゃんケンちゃんは避けたいんちゃうんかい!
せっかく親友になれそうやっとのに、
加藤とはちょっと距離おきたいんちゃうんかい!
ウッドベース弾いてる長身の人見かけたらちょっとギクっとしてしまうんちゃうんかい!
それは知らんけど!
学校でこけたりしてやな、
友達に「大丈夫?」って聞かれたら一応「大丈夫だ〜」って返さないかん気がするんちゃうんかい!
それも知らんわ!
考えすぎや!
そんなサービスはせんでエエねん。
オマエもあかんとこあるわ。
そうゆうとこあるわ。