第244話 走れ春子
悲しき怪人は今年も悲しい。
1月某日早朝。
悲しき怪人(こと、たこの歌手安藤さん)は梅田のとある個室ビデオにいた。
見なれた光景、
馴染みの店。
いつものリズムである。
しかし、しばらくして怪人は気づいたのであった。
記憶がないことはいつものこと。
しかし今日は靴を履いてなかった。
さらに、お金もなかった。
怪人は携帯電話のボタンをプッシュして、ある人物との連絡を図った。
「春子さん、まずいことになった」
桜川春子。
大阪地下音楽のミュータントであり、
悲しき怪人、安藤の恋人である。
「春子さん、お金と靴を、梅田の個室ビデオまで持ってきてくれないか?」
個室ビデオ。
知ってる人は知ってる。
知らない人は知らない。
ここで説明しよう。
個室ビデオとは・・・
受付にて先にお金を支払い、5本ビデオを借りる。(ここで言うビデオとはアダルトビデオである。もっと言うならDVDだ)
そして、それぞれ一畳ほどの個室に入り、モゾモゾする、そんなところだ。
お金は先払いだが、それはそれぞれ3時間コース、5時間コースなど、コースのお金だ。
延長すると、もちろん延長金がかかってくる。
社会のルールである。
(かくいうわたしも、たまに利用する。しかし、それはモゾモゾ目的ではなく、始発までの仮眠タイムとしてである。本当だ。始発まであと三時間、個室で仮眠をとるための利用である。本当である。しかし、受付で何も借りないのは無礼に当たると思い、一応ビデオを5本借りることになる。一応だ。そして三時間仮眠するつもりが一睡もせず三回しこってる。みたいなことになっちゃう。しかし、これは余談である。)
春子は走った。
お金と靴を持って。
春子は走った。
シコシコの牙城に向かって。
正月である。
世間はまだ正月。
春子は悲しかった。
しかし、春子は走った。
正月の朝に。
愛する恋人のため。
春子は牙城についた。
そして、そのシコシコの館ののれんをくぐった。
驚く客、呆気にとられる店員。
個室ビデオに金髪のババァが・・・なぜ・・・??
そこに怪人があらわれた。
「春子さん、別に入ってこなくてもよかったのに。」
「外まで取りに行ったのに。」
ありがとうが聞きたかった。
何もいらなかった。
ただ、ありがとうが聞きたかった。
そして春子はうどんを食べた。
そして春子はうどんを食べた。
そしてこぼした。
悲しき怪人たちは今年も悲しい。