第259話 このひと嫌いかも 3

飯野さん55歳(仮名)がとうとうメモ 帳を買いました。
飯野さん、やっとわかってくれましたか。
飯野さん、ボクは嬉しいです。
これで手のひらにメモを取ることもなくなるんですね。
飯野さん、ボクはホッとしましたよ。


(ホッとしましたよ)

と、思ったのもつかの間。
様子がおかしいんです。
飯野さん、全くメモ取ろうとしいひんのです。
ただ、こればっかりは、
メモを取る、取らないの裁量ばっかりは本人に委ねるしかないわけです。
本人が決めるべきです。
しかし、余りにも取らないし、そして何より覚えがよくなったと思えない。
そやからボク聞いたんです。
正直、忍びない気持ちでいっぱいです。
55歳の大の大人・・・特大の大人に向かってです。
メモを取ってるか取っていないかの詮索なんて。
ホンマに忍びないんですが、
ここはひとつね、ちゃんと聞かないと。
「飯野さん、メモ取ってもらってます?」
ほな、飯野さん答えてくれましたよ。
「はい、書いてますよ〜」
ハキハキ答えてくれました。

「帰りの電車で書いてるんですよ〜」

今書かんかい!

え?帰りの?電車で?メモ?
それメモっていわへんねん!
ってゆうか、帰りの電車まで覚えてることはもうメモせんでエエからね!
なぜなら、覚えているから!
オマエ、飯野、ほなそれ帰りの電車までに忘れてしまってること山ほどあるわ、
帰りの電車で『今日覚えたことノート』なんてつけんでエエねん!
ってゆうか、それこそ手にメモったらエエねん、得意やん、
それを電車の中で清書したらエエねん、

耳無し芳一みたいになってしまうかもね!

こわいわ!

なんやねん、腹立つわ〜!
通りでメモ見て仕事せえへんわけや、
なぜならば、メモ帳に書いてることは、全部覚えてることやからやん、
謝れって、オレは最後でエエわ、
まずノートに謝れって、
コクヨの人にも謝れって、
なんやったら木にも謝れって、ノートの原材料の木に謝れって、
ノートの原材料じゃない木にも謝れって、
今から木に謝りに行けって、
ほんでね、もうね、言うたんです。

「メモ帳見せてもらっていいっすか?」


(いいっすか、マジで)

こんなんホンマ言いたないじゃないですか、
でもこの芳一はダメなんです、
果たしてこの芳一はホンマにメモ取っているのか、
どんなメモをとっているのか。
帰りの電車でどんなメモをとっているのか。
「飯野さん、メモ見せてもらっていいっすか」

「メモ帳はカバンの中にありまして・・・」

だからなんやねん。

わかったから、それ持ってこいや!
カバンの中にあるんやろ、わかったからそれ持ってこいって!
その二本の足で、両の足で休憩室まで行ってやな、
そしてその二本の手を、両の手を使ってカバンの中からメモ帳をだして、
そして、またその両の足を動かしてメモ帳をこちらに持ってこんかい!
そして持ってきたその暁には、その両の手をつかってわしにメモ帳を渡さんかい。
ってゆうか、メモ帳カバンの中に入れとくってなんやねん、
メモ見る気あれへんがな!
とりあえず、メモ帳見せんかい・・・

なんやこれ、商品名だけ書いてあるやん。


(ゴゴゴゴゴゴ・・・・)

なんや、これ、商品名だけ書いてあるけど、
一体これはいつ役に立つんや。
これがどの棚にあるとか、そういうことを書かないとあかんのとちゃうかな?
わかる?言うてること。
こんなんメモってよばへんから。
ってゆうか、帰りの電車までも覚えておけてないんやん。
だからこんな大層残念なノートができてしまうんや、
飯野さん、そのメモ帳にひとつメモってほしいんですけども、
言いますよ、メモってくださいね。

メモを取る。


(メモを取れ)

メモを取るとそのメモ帳にメモってください。