第261話 サイン

プールグループ(というバンド)と共演した。
ドラムのきゅうちゃんは、プールグループを含めて4つバンドをしている。
そしてその中のひとつがアニメーションズである。
この間のアニメーションズのライブの時の話だ。
ライブが終わりきゅうちゃんがフロアでお酒を飲んでいたら、
一人の女の子が駆け寄ってきた。
手にはアニメーションズのCDが握られている。
女の子は勇気をふりしぼりきゅうちゃんに喋りかけた。

「サインください!」

きゅうちゃんは、少し悩んだ。
なぜなら、女の子が手にしている、アニメーションズのCDは、
きゅうちゃんが参加するずっと前の作品であり、
この作品でドラムをプレイしているのは、
ご存知KTRセンパイである。
俺たちのKTRセンパイなのである。
そして、今日この場にKTRセンパイもおられるのだ。
きゅうちゃんは言った。
「このCD、オレが叩いてるんちゃうねんやんか、ほんで、このCDで叩いてるん、あそこの人やねん。」
KTRセンパイを指差した。
女の子の目がきゅうちゃんの指を追う。
女の子の目がKTRセンパイをとらえた。


(どうもKTRです)

言葉を失う彼女。
「サインもらってきてあげよか?」
きゅうちゃんが問いかける。


(サインしましょうか?)

しばしの沈黙の後彼女は言葉を取り戻した。
言葉を取り戻した彼女は答えた。
それはそれはハキハキと。

「いま叩いてる人のがいいです。」


(了解しました!)

彼女の瞳はとても綺麗だった。