第266話 見送り

ある朝、けつむらさんの目が腫れていた。
二日酔いで顔がむくんでいるとかではない。
涙を流したソレである。
「どうしたん?」と聞いてみた。
心配2%、好奇心98%だ。
けつむらさんが口を開く。

東京から大事な人がきていたんだ。
そして土日と一緒に遊んで、
月曜日仕事終わりでバスを見送りにいったんだ・・・。

けつむらさんは高校を卒業して10年以上東京で暮らしていた。
その東京に残してきた大事な人がけつむらさんに会いに来た。
そして、また東京に帰っていた。
楽しかった二日間。
夢のような二日間。
バスがどんどん小さくなる。
あなたがどんどん遠くに行ってしまう。
どんどん小さくなっていくバスを笑顔で見送る。
笑いながら泣いていた。
東京へかえっていくあなたの後ろ姿を見つめながら言葉は歯の裏でとけた。

ボクには遠距離恋愛の経験がないので、
こういう切ないお別れを経験したことがない。
けつむらさんがまた涙ぐむ。
ボクも悲しくなる。
「そっか・・・なんか、ごめんな、なかなか切ない話やな、でもまた会えるやん!」
こんな言葉しかかけられない自分がもどかしい。
「・・・で、どんな人なん?」
思い切って聞いてみた。

「Aさんていう、男の人やねんけど、すごい気の合う人やねん、歳なんか一回り上なんやけど・・・」

え?

え?ちょっと待って?
男の人なん?
「そうやで、男の人やで、聴いてる音楽の趣味とかメッチャあうn・・・」
え?男の人なの?
聴いてる音楽の趣味とか別にどうだっていいんですけども、
え?ほんで一回り年上なん?けつむらさんの?

「そう、43歳の戌年

おじさんじゃん。

おじさん見送って泣いてたの?
いいんだけどさ、
全然いいんだけどさ。
もう一度確認なんだけどさ、
昨夜泣いたじゃん、
大事な人を見送って泣いたじゃん、
けつむらさん、昨夜、大事な人を見送って泣いたじゃん?
バスに乗っていた人ってさ・・・おじさん?

オカマやないか!