第275話 ラーメン深夜3時

深夜3時を少し過ぎていただろうか。
わたしはラーメンを待っていた。
今日もよく飲んだものだ。
店にはわたしを含め四人の客がいた。
常連であろう50年配の男性(Aとしよう)。
その男性が連れてきた(であろう)若作りはしているがこちらも50を少しく過ぎたであろうホステス(Bとする)。
もう一人こちらも常連であろう、40歳くらいの男性(Cとしよう)。
そしてわたし。
店を切り盛りしているのは、わたしと同じくらいの年頃の女性である。
Aが店員の女性に声をかける。

「おっちゃん、いっつもこのくらいの時間に食べにくるんやけど、姉ちゃんいつもいてないよな?もしかしておやっさんの娘さんか?やっぱりそうか!いや、顔がそっくりやからすぐわかったで!」

女性店員の顔がややくもる。
わたしは彼女の事情をすぐに察することができた。
壁に彼女の父親である店主の写真が貼ってあった。
ラーメン雑誌に掲載された記事である。
似ていた。
女性店員は確かに父親似であろう。
しかし、
しかしなのである。

父親がゴリラ似なのである。

ちがう、そうじゃない、
オブラートに包みたい。
ふんわりオブラートに包んで、
そっと皆さんに届けたい。
ほら、動物園にいる、
ほら、なんだっけ?
バナナが好きで、大きくてさ、
ウホ!ってゆう、ウホ!っとかゆってさ、
胸なんか叩いちゃって、ウホホ!ウホホ!って・・・

ゴリラ!

あかん!オブラート破けてもうた!
ビリビリや!
ゴリラに似てるねん!
オトンむっちゃゴリラやん!

Cがフォローに入る。
「いやいや、おやっさんには似てないでしょう、こんなにかわいいのに・・・目元と鼻はおやっさんやな。口も面影あるな・・・」

ほな、ゴリラやないか!

お父さんゴリラと娘さんゴリラやないか!
誰か〜!失礼じゃない人〜!
お客様の中に失礼じゃない人いてないですか〜!

Bが口を開いた。
「でもね、若い頃にお父さんに似てる女の子は幸せになれるのよ・・・」
そうそう!そんなん、
そんなん欲しいねん、
ちょっと弱いけど、そうゆうんいいですね、

「わたしも若い頃はよく言われたもの」


(・・・なに?)

オマエも・・・?

え?オマエも?
オマエもオトン似やと?
言われていたと?
いや、幸せの形ってホンマに人それぞれです。
幸せの形は人それぞれや思います。
しかし、オマエのそれはなんかひし形やわ。
なんかわからへんけど。
ひし形やわ。


ベイビー、人ってみんな欲張りだね。
そんなに望んじゃこぼれてしまうのに。
ベイビー、どんぶり一杯分の幸せをおくれよ。
湯気が立つくらいの幸せを。