第340話 寒波

今日は今年一番の寒さなんじゃないでしょうか。
身体の芯までひえるようです。
こんな日は熱燗が美味しいですね。
ちょっと前置きはこれくらいにしときます。
って言いますのもですね、
ちょっとのっぴきならないんで、
のっぴきが全くなってないんで、
もう少しのっぴかないとダメな状態になってまして、
てやんでい、もう少しのっぴきやがれ、
ってな形になってしまってますんで、
何がそんなにのっぴかないのかと言いますと、

木村くん今日、服二枚しか着たはらへんねん。



(二枚だぴょん)


こんなに寒いのにですよ、
こんなけ寒い今日って日にTシャツとカーディガンて・・・。
木村、それはてめえ、文化祭の時の格好だぞ、
クリスマス経て正月も経て、七草粥食べちゃっての今日って日にだ、
Tシャツにカーディガンはねえだろう。
なんだ、寒くはないのか?
ペンギンか?
てめえはペンギンなのか?
お父さんがペンギン、お母さん・・・も、またペンギン。か?
それはそれは由緒正しいペンギンじゃねえか、

木村くんSAY(木村くんは言った)

「大丈夫やねん、マフラーと手袋してるから」


(マフラーたって・・おまえ・・・)


胴体のハナシしてんだよ!


そこじゃねえんだよ!
首もとと手先暖めてどうにかなる装いじゃねえだろ!
のっぴきがならねえんだよ!
それにあれだろ、
カーディガンってあれだろ、胸のとこにオープンスペースがあるだろ、
そのオープンスペースはあれなわけだろ、
Tシャツ1枚なわけだろ、
言うなれば夏と同じなわけだ、
胸元のオープンスペースは夏と同じ装備なわけだ。

・・・なんで無事なんだ?



(なんでなんでなんで)


覚えているか、大阪に初雪が降ったあの寒い日を。
町はクリスマスに浮かれていたよな、
そんな日もオマエはTシャツで働いていたっけな、
フーフー汗かきながらよ、
(オマエ、夏どうすんだ?)
ラジオからはクリスマスソングだよ、
なのにてめえは「飽きちゃった」とかなんとか言っちゃって、レゲエソングをスピンスピン。


だから、なんでてめえの周りだけそんなにトコナツなんだよ!



(なんでてめえだけ服を着てねえんだ)


みんなクリスマスの空気感楽しんでんだろうが!
なのにだ、ンチャ、ンチャ、ンチャ、ンチャ言いやがって!
なんなんだ?
寒くはないのか?
なんだ、あれか?オマエはあの時の鶴か?
あの時の鶴なのか?
雪山かなんかで罠かなんかに引っ掛かるかなんかしてる時に、
うちの社長かなんかに、助けられたかなんかしたのか?
それで、あれか?恩返しにきてんのか?
鶴だから寒さとか感じない感じなのか?
それならそれで、鶴なら鶴で、若い娘さんに身をうつしなさいよ、
なんでよりによって・・・

なんでよりによって、犬の顔をしたおじさんなんだよ!




「あの時の鶴です、恩が・・・」
「鶴?知らねえよ!」
「恩返しに・・・」
「恩返し?しなくていいよ!知らねえっつってんだろうが!」
「でも、恩返ししないと・・・」
「だからいいっつってんだろうが!それにてめえ、犬じゃねえか!
「ほら、あの雪山で・・・」
「だから知らねえって!気持ちのわりぃやつだな、警察呼ぶぞ?」
「ほら、助けていただ・・・」
「おい、さちえ!警察だ、警察!警察呼んでくれ!なんかわけのわかんねえやつがきてんだ!こんなにさみいのにカーディガンなんて着やがって・・・オマエ、オレと同い年くれえだろ、ちゃんとしねえとダメじゃねえか・・・さちえ!もういいよ!警察、もういい!茶入れろ、あちいやつ入れろ!これ飲んだら帰れよ」



木村、もうつかまんじゃねえぞ。