第362話 広島遠征記 其の三

リハーサルを終えたわたしは少年フォークの連中と風呂屋へ向かった。
サヨナラバイバイズ2回目の広島ライブ。
初回に呼んでくれたのも少年フォークだ。
少年フォークはいい。
バカで暖かい。

風呂屋を出たわたしたちは飲み屋を探した。
昨夜行った直ちゃんがまだ開いてなかったので、
ライブハウスの近くのカープ鶏(という焼き鳥屋) に入った。
そこでそこそこに飲んでいると、
「松井くん、せっかくじゃけぇ、カキを食いにいきましょう」
となり、河岸を変えることになった。

二軒目は浜焼きの店であった。
まず、付きだしがこれ。



(時間かかんだろな〜)


・・・焼く感じ?


生のハタハタが出てくる。
それを七輪で炙り食うスタイル。
付きだしの概念が音もなく崩れ去った。
ビールは手もとに。
付きだしが今まさに、焼かれている。



(ジューって。ジューって、なっ)


そこは、切り干し大根とかの方がエエわけやん。


ほら、付きだしって、料理がくるまでにちょこちょこ食べるやつやん。
立派な一品やん、ハタハタ。
生やし。まだ生やし。
ハタハタを美味しく食べ終えたタイミングでカキが到着。
カキのカラが弾けて危ないので網をかぶす。



僕のカキ、2個とも出てるんやけど・・・


これは、弾けてエエ・・感じ?
僕の目の前のこのカキは弾け・・・アチッ!!
そして、お会計。
そこで事件は起こった。

「これだけ食べてこんなんか〜、安いなぁ」

シュッ

「っつうことは・・・一人なんぼなるんや?」

シュッ

「えっ、いいよ、払うよ払うよ!」

シュッ

「・・・そうなん?ほなご馳走になろかなぁ、ホンマありが・・・・」

シュッ、シュッ、シュッ



(シュ!)


むらしげ、なんでてめぇはさっきからオレにファブリーズをしてくれちゃってんだ!?


くせえ?おれくせえ?
さっきからファブリーズを振りかけてもらってるわけだけど、
おれくせえかな?
(あっ、おごってくれてありがとな)
お風呂にさっき一入ったばかりなんどけども。
一緒だったよな!
・・・え?浜焼きの煙が?かかっているから?
だから、ファブってくれてんだ、
そっか、そっか、それはありがとう、
なんだかごめんなさい、
気使ってくれてたんだな、
ほんと、ありが・・・

みんな煙に当たってたけどな!



(シュ!すんなって)



夕暮れの町をゆく。
ライブハウスにむかっている。
俺たちバンドマンが輝けるのはステージの上だけ。
30分だけ輝けたら、あとの23時間30分はクソッタレでも構わないんだ。
そう、俺たちは・・・


「松井さん、フリスク配ってますよ、フリスク



(シュ!じゃねえんだ)


くせえ?オレ、口くせえ?



今オレ良いこと言いたい感じなんだけども、
口がくせえ?
口がくせくて入ってけこねえ感じ?
ごめんな、なんだか。
ん?何?
浜焼き食ったから、お口直しにって?



(シュ!じゃねえよ)

うん、みんな食ったな!


夕暮れの町をゆく。
僕らはライブハウスにむかっている。