第366話 続・もえこのこと

庭の片隅にソレはあった。
大きな庭の片隅。
もえこがいつもいた場所。



小雨が降る四月某日。
わたしは徳島にいた。
もえこのお墓ができたというので、
お墓参りを兼ねて、恋人の実家へと遊びにきた。

もえこのいた12年間。
雨の日も風の日も嵐の日も、臭かったもえこ。
もえこはもういない。
あんなに臭かったこの庭が、春の香りを運んできている。
ひとつの庭としてはスタートラインに立てた感はあるが、
やはりさびしい。
庭は臭くないほうがいい。
だけど、やはり、さびしい。
もえこのいた庭。
もえこのにおいの染み付いたあの庭は、もうない。
もえこは、もういない。

もえこの墓は庭の片隅にあった。


地面にヤクルトがめり込んでいる。



コップとかでよかったんじゃねぇかな、って。



(せめて・・・)

この墓の主な構成成分は乳製品の入っていたプラスチックである。
乳製品を美味しく召し上がったあとにできた墓だ。
なんだか手を合わせづらい。
手を合わせたら負けな気がする。

そして、お酒になった。
来る途中、徳島の地酒を買ったのでソレを飲むことにする。
在りし日のもえこを想い飲む酒。
お母さまが簡単なつまみなどを用意してくれた。
お母さまはつまみと一緒に一本の酒を持ってきてくださった。

「うち、こんなんあっても飲まないから・・・」と言いながら。
と言いながら持ってきたのは、

わたしがお土産に持参した酒であった。



(アリガトウゴザイマス)


前回わたしがお土産に持参した伏見のお酒を持ってきてくださった。
とっても美味しかった。