第371話 鞄購入顛末記

カバン欲しいなぁつって。

わたしには懇意にしている服屋さんがひとつありまして。
何の予定もない土曜日の昼下がり、その服屋(Oとしておきます。)に向かった。
普段全くと言って差し支えのないくらいに、洋服を買わない(けっこう貰えるんすねー)わたし。
久し振りのショッピングに心が踊る。

店主(Yさんとしときましょう)が笑顔でむかえてくれる。
「松井くん、カバンやんな〜」
わたしはYさんの顔を見るたびに「カバンが欲しい、カバンを探している」と言っていたので、
すぐにたくさんの在庫を見せてくださった。
その中にそのカバンがあった。
わたしの探しているカバン、そのものであった。
かたち、サイズ、機能性、パーフェクトである。
わたしは一目でYさんに切り出した。

松「これにしよかな!」

Y「あ〜〜それな!エエよなー、かわいいしなぁ・・・でも、コッチなんかは?」

松「いや、これやわ、一発で決めた」

Y「そうなん、かわいいもんなぁ、大きさも言うてたくらいやしなぁ・・・でも、もうちょい迷ったら?」

わたしは直感を信じる。
そして、いつだって正解を選らんできた自負がある。
今日だってそうだ。
「いや、これに決め・・・」


「ちょっとにおってみてくれへん?」



(・・・?)


・・・えっ?


「決める前に、このカバン、におってみてくれへん?」



(・・・?)


・・・臭いん?


Y「いや、臭いっていうか、なんていうか・・・くさない?」

えっ?臭いん?
ちょっと匂ってみます。
・・・う〜ん、別に気にならないけど。
確かに匂いはあるけど、
物って匂いがあるものやからなぁ・・・臭いん?この匂いは臭いん?


Y「いや、ここまではにおってないけど、鼻を近づけたら・・・」



(・・・?)


臭いん?


鼻を近づけたら臭いん?
そうなん?
そやけど、鼻を近づけたら、松井のワキかて匂いするわけやし・・・

Y「・・・・」



(・・・)



臭いん?鼻を近づけんでも臭いん?


そうなん?
松井のワキ臭いん?
いや、大丈夫、このカバン臭くないです!
無臭ではないですが、
判定!白!グレーに近い白でありますが、黒ではありません!


Y「どうする、袋いる?」



(・・・?)


臭いん?


そんなに臭いん?
袋に入れないかんくらい、臭いん?

Y「いやいや、背負っていきますか?持って帰られますか?って。」

そっちか、
ゴメン、ゴメン、なんかデリケートになってもうてるわ、
えっ?今から、ちょっと飯でもいこかなーおもてるねん。
寿司食いたいなーって。


Y「・・・寿司屋で怒られへんかな・・・」



(SUSHIYA DE OKORARE CYAUNO?)


臭いん?


やっぱり臭いん?
人が怒るくらいに臭いん?
冗談?そうやんな、冗談やんな!
ほな、このカバン買います、ナンボですか?


Y「・・・臭いから千円で」



(やっぱし、臭えんじゃねぇかよ〜〜)



言うてもうた!
『臭いから』って言うてもうた!
やっぱり臭いん?
そんなに臭いん?