第375話 葬式にいった

「ばぁさん・・・わしもすぐにいくからのぉぉぉっっ・・・!!」


ひろしが泣いている。
みんな泣いている。
わたしも泣いた。
木村家のおばあさんが亡くなった。
よく晴れた初夏の徳島。
わたしは嫁の実家の葬式に参列していた。
喪主は嫁の祖父であり、故人の夫である、ひろしである。


「ばぁさん・・・わしもすぐにいくからのぉぉっっ・・・!!」


60年連れ添った伴侶とのお別れだ。
ひろしの嗚咽が参列者、すべての人の胸をうち、涙を誘う。
が、しかし参列者のすべての人が同時に思っていた。


まだまだ生きんぜ・・・このじいさんは・・・。



〜2日前〜



「朝掘ってきたタケノコ剥くぞ、手伝え」


おばあさんのお見舞いから帰ってきたわたしは、木村家の居間で酒を飲んでいた。
ひろしが、朝掘ってきたタケノコをむくらしい。
そして、それを手伝わされるらしい。
めんどがくさい。
激くさだ。


「じいちゃん・・・肩を手術したやろ、肩の傷が痛むんじゃ・・・見てくれ」



(痛むんじゃ・・・)



(ここなんじゃ・・・)



(・・・どこ?)


あー、キレイに治ってるわ!




〜木村ひろしの春夏秋冬〜



春。


花見で酔っ払い転んで肩を脱臼、


医者の言うことを聞かずに独自のリハビリをはじめる。


翌日2回目の脱臼。


完治。



(完治〜♪)


夏。


酔っ払って庭で寝ているところ、


家のクルマにひかれかける。


無事。



(おしい〜♪)


秋。


山で作業中、


足を滑らせ10メートル下の谷底まで転げ落ちる。


頭を3針か縫うが、


無事。



(おしい〜♪)


冬。


ひ孫たちのクリスマス会になぜか血だらけで登場。


全員ドン引き。


無事。(原因不明)



(なんで〜♪)





まだまだ生きんぜ・・・このじいさん・・・。




※大好きなおばあちゃん、本当にありがとう。
おばあちゃんに最大級の愛と感謝を。
松井洋介。