第449話 誕生

新しい家族ができた。




長崎に嫁いだ姉の第一子である。
名前は綸葉と書いて『いとは』。
難しい漢字になったのには理由がある。
はじめ考えていた漢字は画数がよくなかったらしいのだ。
画数なんてどうでもいいことだと思うのだが、
調べてしまうと気になるものだ。

先月、上田くんにも第一子が誕生した。
子供ができて一番最初の悩みが『名前』だというのはよく聞くことだが、
上田家も御多分にもれずである。
上田に続く名前は五画が良いらしい。
上田くんの名前も『太一』で五画である。
そこで、上田くんのお母さんが用意した名前がこれだ。




上田 仁一 (うえだ じんいち)


お母さん、『仁』はダメだ、『仁』はよくねえ。
いや、仁一、男らしくて良い響きだと思いますが、
兵庫県に住んでいて『仁』っつうのは、ほら・・・あいつがいますんで・・・



ジンタの野郎が・・・


名前には色んな人の色んな思いが込められている。
どんな人生を送ってほしいか、
どういう人間になってほしいか、
逆説的に言おう、
どんな野郎にはなってほしくねえか。


ジンタのようなクソ野郎にはなってほしくねえ。



人から借りてるエフェクターを売っ払っちまったり、
人に懇願して譲り受けたエフェクターを売っ払っちまったり、
友達の彼女でオナニーをしたり。
そんな呪われた漢字なんです、お母さん・・・
『仁』はよくねえんです、わかってもらえましたか、おk・・・



「じゃあ、犬一は?けんいち」





画数だけじゃねえんだ



なっ、圭太郎、画数だけよければいいってわけでもねえんだ、
上田太一の息子、上田犬一。
点をずらしただけで、えらく意味合いが変わっちまったもんだが。
『けんいち』はいいけど『犬一』はダメ、
なっ、バカでもわかんだろ、
・・・わかんねんか!
貴様は昔こんなことを言っていたもんな、
「京都に住んでるから京都らしい名前がいいから」



男なら『烏丸(からすまる)』
女なら『エドモンド(えどもんど)』





駅やないか。


まず『烏丸』。
京都の人にはなじみ深い、阪急京都線の終点から一つ手前烏丸(からすま)やないか。
ほんで『エドモンド』。
色々言わないかんことだらけなんやけど、
ストリートファイター2のキャラクターのエドモンド本田をして京都らしいと言うてるんやと思うんやが、





名前から察するに、おそらくこの人・・・江戸っ子やで。


名前には色んな人の色んな思いがつまっている。
「画数」というのもそうだ、
画数を気にする、という思いが愛なのだ。
ああだこうだ、ああでもない、こうでもない、
両親はもちろん、家族、友人の愛だ。
姉の病室。
父ふんさんが口を開いた。



「松井 信也・・・画数、最高やねん」




(・・・この写真ダメかも)


なっ、アテになんねぇんだって


こいつ見てみろよ、
画数最高でこの仕上がりだぜ。






よく見え〜〜〜る