第343話 ハッピーバースデイ キチュウ


Happy Birthday to me
Happy Birthday to me
Happy Birthday dear kichu
Happy Birthday to me ・・・





(夏の思い出)



1月22日、つまり今日はキチュウさんの誕生日だ。
前夜(つまり昨夜)、ボクはペヨーテ(というバー)のカウンターの中にいた。
今夜はキチュウさんの誕生日前日。
つまり、キチュウさんの誕生日のカウントダウンの日だ。
ボクは世界にこんなメッセージを発信していた。

「今日はキチュウさんの誕生日です。キチュウさんの誕生日をペヨーテで一緒にむかえませんか?」

九時ごろからボチボチお客様がご来店。
三人ほどお客様が来られ、静かに火曜日の夜を過ごしている頃に主役が登場した。

あれ?・・・こんな感じなの?



(・・・ん?)


徐々に人は増えたり減ったりしながら、
(減っちゃうところがミソ☆)
11時ごろには店内は七分咲きとなっていた。
なんだろう、このすごい通常営業。
11時50分。
常連のTちゃんが「そろそろ帰ります」と席を立とうとした。

・・・あと、10分待ってはくれないだろうか?

そうだよね、Tちゃんは知らなかったよね、
キチュウさん、あと10分で誕生日なんだ。
ね?だから、あと10分だけここにいてはくれないだろうか。
「でも・・・時間が・・・」
そうだよね、電車の時間もあるもんね。
いやっ、しょうがないよ!
残念だけど、今日は本当にありがとう!
キチュウさんも喜んでいます。
それじゃ、表まで見送らせてください。
寒いから風邪ひかないようにね!

自転車を立ちこぎで帰るTちゃんを見送ったボクが店内に入ると、
キチュウさんは少し悲しそうな顔をしていた。
そしてカウントダウンの時間をむかえた。



鶴田!寝るんじゃねえ!

日付変わったとともに寝るやつがあるか!
キチュウさん39歳。
どこに出しても恥ずかしい、立派なオッサンである。
キチュウSAY(キチュウは言った)

「ちょっとキチュウ検索かけてみるわ、キチュウの誕生日やで、ツイッター盛り上がってるんやろな〜」




(あれ・・・?)







(あーーーーー!!)




キチュウさん!つぶやいてしまってます!


キチュウさん、エゴサーチするつもりが間違えてツイートしてもうてます!
0:00付けでつぶやいてしまってます!
誕生日むかえた瞬間に『キチュウ』ってつぶやいてしまってます!
一番恥ずかしいやつです!

「お店から頂いた誕生日プレゼント〜♪」



ごめん!たばこの灰がかかってもうた!


キチュウさん、39歳の誕生日おめでとうございます。
サンキュー(39)の思いを込めてこの歌をキチュウさんにプレゼントします。
ほんとうにありがとう、キチュウさん。
誕生日おめでとうございます。




誕生日の事を覚えていますか
ろうそくのにおい 胸にためた
あなたのことをお祝いしましょう
あなたである今日と明日のため




(これ、正月に余ったモチだろ・・・プレゼントって言われても・・・)



生きてきたようで
生かされている
そんな私であって
あなたである




(ポケットから出てきたグリコ、プレゼントです、ってか?)



おめでとう
今日まで辿りついたんだよ
つらいことの方がよくあるけど
ありがとう
理由は何もないんだよ
あなたという人がいることでいいんだよ




(おい、田淵、背中向けんなや)



貰ったものをおぼえていますか
形無いものもありました
わたしにもないし
あなたにもない





(みんなムッチャ携帯いじるやん)


おめでとう
奇跡があなたなんだよ
暗闇に灯っている火のように
ありがとう
手のひらあわせられるのは
あなたがこうしてここにいるからなんだよ





(みんな、ムッチャ寝るやん)



おめでとう
今日までたどり着いたんだよ
思い出がまた一つ増えました
ありがとう
理由はなにもないんだよ
あなたという人がいることでいいんだよ




(みんな、帰っちまって・・・)



オレはバーテンダー
カウンターに男が一人。
誰もいなくなった店内に、
男の歌声が響き渡る。




Happy Birthday to me
Happy Birthday to me
Happy Birthday dear kichu
Happy Birthday to me ・・・


(訳)
誕生日おめでとう オレ・・・
誕生日おめでとう オレってばよ・・・
誕生日おめでとう 親愛なるキチュウ・・・
誕生日おめでとう オレ・・・



キチュウさん、時間なんで早く帰ってはくれないだろうか