第217話 大阪のシド&ナンシー(関)

きっかけは一葉の写真であった。
これは一葉の写真を巡っての、ある男とある女の哀しくも切ない物語である。

きっかけはクリトリックリスのスギムラ特派員が彼の名著『下ネタのナポレオン』というブログで公開した一葉の写真であった。
ある男がある女性の足に噛みついている、奇妙な構図の一葉の写真。
その写真が男の人生を大きく狂わせたのであった。
その写真がこれだ。

安藤っっっ!!

我らが心の兄貴、悲しき怪人こと安藤パイセンだ。
安藤パイセンが一人の女性の足に噛みついているではないか。
しかもその女性をよくよく見てみると、
十三の狂犬こと、十三のかをりちゃんではないか。
このスギムラ特派員の記事を見て激怒したのがこの女だ。

桜川春子である。

そうご存知、悲しき怪人安藤パイセンの恋人、桜川春子である。
このカップルは大阪のシド&ナンシー(関)として関西では有名な二人なわけであるが、
浪速のシドのご乱行に対し、浪速のナンシー(関)が激怒したのであった。
ナンシー(関)曰く、

「おい、こら、安藤!オマエ、何をかをりみたいなもんのきちゃない足ねぶっとんねん、こら、安藤、おのれ何かい、かをりのきちゃない足ねぶった口でわしの口ねぶったり、いろんなとこねぶったりしとんのかい!しばきまわすぞ!」

(訳:ちょっと安藤、あなたはなんでかをりみたいな人の汚い足を舐めたりしてるの?ちょっと安藤、あなたはかをりみたいな人の汚い足を舐めた口で私にキッスをしたり、いろんなとこ舐めたりしてたの?たたいてまわしちゃうわよ!たたいたうえにクルっとまわしちゃうわよ!)

いろんなとこて、兄貴・・・

こいつの「いろんなとこをねぶる」て兄貴・・・。
きついっすわ、
いや、マジきついっす!
春子SAY、(春子は言った)

「安藤、あんたは女心っちゅうもんを一つもわかってない!安藤、あんたキチュウに女心ってもんを教わってきぃ!」


(キチュウやで〜)

え・・・?こいつに・・・?

この方に?
キチュウさんに女心を?
マジに?
浪速のガサツ大臣に?

その夜、ミナミで一人飲んでいたキチュウさんに一本の電話が入った。
ミナミのプカプカ(というバー)で飲んでいたキチュウさんに一本の電話が入った。

「キチュウ、今何してんだ、オレもそっちに行っていいか?」


(いってもいいのか〜い♪)

俺たちのシドビシャスだ。

おいおい、本当に教わりにいっちゃったよ!
ダメだって、
キチュウさんはダメだって!
キチュウさんと安藤さんの夜が更けていく。
悲しい夜だ。
そして二人は店を出て二軒目のほうぼう(というバー)ののれんをくぐった。
カウンターに二人が腰掛けると同時にBGMが切り替わった。

佐野元春で『グッドバイから始めよう』

安藤の中で何かがはじけた。

「いやだ!春子さん!オ・・・オレは、あんたが大好きなんだよぅぅぅぅ!!!!こんなサヨナラなんて、オレはいやだぁぁあぁ!!!」
バーのカウンターで号泣する男が一人。
その隣に男がまた一人。

合わせて、79歳。

キチュウは空になったロックグラスを見つめていた。
氷が音もなく溶けていく。
隣には泣きじゃくる男。
BGMは佐野元春
キチュウは思った。

知らんがな。


(知らんがな、エイっ)

どうでもエエ。
ホンマにどうでもエエ。
オッサンとオバハンの恋の行方ホンマにどうでもエエ。


(何をしとんねん、この二人は、結局かい)

そして陽が昇り、お昼の十一時。
二人は冷麺館にいた。
悲しき怪人は今日も悲しい。