第359話 広島遠征記 

広島の夜は更けていった。
バンドが叫んでファビュラスな夜がシャープなビートでダンスを終えた。
場所を打ち上げ会場にうつした我々はそれぞれの夜を楽しんでいた。

少年フォーク(というバンド)主催のイベントで広島に招かれたサヨナラバイバイズ。
ライブを終え、打ち上げに参加したのであるが、
その打ち上げで事件は起きた。
なんかザワザワしているなとは思っていた。
突然だった。
ひとりの男子が仲間連中に押し出される形で口を開いた。

「ゆりえさん、隣・・・隣に座ってもいいですか?」



(え・・・?)


オマエ・・・いじめられてんのか?


おい、オマエらもだ、よくねえぞ!
いじめはよくねえよ!
仲間をよ、ゆりえさんゴリラの隣に座らせるなんて、
あれだろ、
ウンコ食わせるみたいなあれだろうが!
俺も人に説教できるような人間じゃねえので、
偉そうなことは言いたくねえんたが、
俺の前でそんなひでえいじめはよしてくれよな!

「違うんです・・・ボク、ゆりえさんのファンなんです・・・」

・・・マニアのひと?

え?なに?
君はこの、ゆりえさんゴリラのファンの方なの?
マニアのひと?だってゴリラだよ?


「・・・かわいいじゃないですか、顔とか・・・」



(顔とか?)


う〜ん・・・ゴリラにしては、ってこと?
ゴリラの中では器量よしってこと?
う〜ん・・・ぼくらはほら、ゴリラってみんな一緒に見えちゃうから。
なんだろね、
ササニシキコシヒカリくらいちがうのかな?
でも、普通のひとわかんないよね?
お米はお米だし、ゴリラはゴリラだし。


「松井さんの日記拝見させていただいてるんですけど・・・すごいキュートだなって・・・」



(いや、でもゴリラだよ・・・?)


いや、あれはさ、松井フィルター通してっから笑えるかもしれないけども、
実際、ほんと笑えねえ話ばっかっすよ?
ほんとひどいっすよ?
だいたいにして、書けてないこともいっぱいなんだよ、
書いちゃ洒落になんねえこともいっぱいなんですよ、
(ごま油のやつなんか・・・もう・・・)
それでもいいの?
そんな、ゆりえさんゴリラでもいいんですか?
ほんと??
いいの???
ちょっとちょっと、すげえじゃねえか、ゆりえさんゴリラよ、
ひょっとするとひょっとすんじゃねえのか!

「そんなはずない・・・」

ぁんだッて?
なに?小せえ声でわかんねえよ、
なに言ってんです・・・


「そんなはずなかろう!」




!!!




「そんなはずなかろう!わしみたいなものを好いてくれる人なんか、いるはずなかろう!ドッキリじゃろう!ドッキリなんじゃろう!ぬしらの陰謀じゃろう!傷つきとうない、わし、これ以上傷つきとうない!」



(ゆりえさん、落ち着いてください!)


いや、知らねえって・・・
だってほら、この人初対面だしさ、
ほんとにオマエのこと好いてくれてんだッて、たぶん。
それにしても、オマエ、すごい、なまってんのな。
なんだか、入ってきずれえわ。


「とにかく、わしは騙されん!」



(ゆりえさん、落ち着いて!)


いや、それならそれでいいんだけれども。
でも、勿体無いと思うけどなあ・・・。
彼氏できたかもしんねえのに。
人のことをほんとに信用できなくなっちってんだな。
彼、終電だっつって帰っちゃうぞ、ほんとにいいにのか?
携帯番号くらい交換すりゃぁいいだろうに。



※その後

結局、松井、上月、ゴリラ、少年フォークむらしげくん、森本さんで朝まで飲んでマンガ喫茶で仮眠とって始発を待ったんですが、
ボクはバスの時間に寝過ごしてしまいまして
上月くんと二人で青春18きっぷで大阪へ帰ってきました。


ゆりえさんゴリラを広島に置いて。